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名古屋地方裁判所 昭和46年(カ)1号 判決

再審原告 森川悦史

右訴訟代理人弁護士 崎信太郎

再審被告 高井国一

主文

(一)  名古屋地方裁判所が同庁昭和四五年(手ワ)第二五一号小切手金請求事件につき同年五月二七日言渡し同年六月一二日確定した手形判決は之を取消す。

(二)  再審被告の再審原告に対する請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は再審被告の負担とする。

事実

再審原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め再審の事由として、

一、再審被告は再審原告に対し名古屋地方裁判所に小切手金請求の小切手訴訟を起し同庁は昭和四五年(手ワ)第二五一号小切手金請求事件として審理の結果昭和四五年五月二七日再審被告勝訴の小切手判決の言渡があり同年同月二九日再審原告に判決正本が送達されたとされ同年六月一二日の経過により右判決は確定した。

二、しかしながら右(手ワ)号事件の訴訟手続において再審原告は訴状送達、期日呼出、判決正本送達を受けたことがないから、民事訴訟法第四二〇条第三号所定の再審事由に該当するものと思料する。

三、之を詳説するに再審原告の父訴外森川光雄は再審原告の名義を冒用して株式会社富士銀行金山橋支店と当座取引をなしていたところ昭和四四年一二月頃に盗難にあった再審原告振出名義の本件小切手が再審被告の手中に入り本件本案訴訟となったので、困却した森川光雄は再審原告の氏名を冒用して訴状の送達を受け答弁書を提出し判決正本を受領したもので、その間再審原告は何も覚知しなかったものである。

四、而して右判決確定后も右森川光雄は事態の収拾のため小切手判決に対し更正決定の申立をなしたが却下され更に異議申立をなしたが之亦昭和四五年一二月七日に却下判決があったので万策窮した光雄は同年同月一一日に再審原告に事情を明かし、再審原告は初めて再審事由を知ったので、再審期間内の同四六年一月七日に本件再審申立に及んだものである。

と述べ、

本案請求原因事実を否認し、本件小切手は盗難にあったものである、と反駁し(た。)

立証≪省略≫

再審被告訴訟代理人は本件再審の訴を却下するとの判決を求め再審の事由たる事実のうち一、の点を認め他を争そい、本案請求の原因として

一、原告は被告振出にかかる

金 額 二〇万円

支払人 株式会社富士銀行金山橋支店

支払地並振出地 名古屋市

振出日 昭和四四年一二月六日

振出人 被告

なる持参人払式小切手の現所持人である。

二、原告は右小切手を振出日に支払人に呈示したが支払拒絶されたので適式な支払人の支払拒絶の宣言を得た。よって原告は被告に対し本件小切手金二〇万円並之に対する呈示の日である昭和四四年一二月六日以后完済迄年六分の割合による法定利息の支払を求める、と陳述し(た。)

立証≪省略≫

理由

本件訴訟は小切手判決に対する再審の訴である。それ故本案請求の当否に関する事実の立証は小切手訴訟としての証拠制限に服するが、再審の事由に関する事実は職権探知事項であるから証拠制限を受けぬものである。

再審原告は本件(昭和四五年(手ワ)第二五一号)小切手訴訟において適法に代理せられなかったと主張するので考えるに、

(1)  本件訴状には被告として「名古屋市昭和区二丁目四番地」森川悦史と表示せられて居り、本件訴状は右同所同番地において送達せられ、本件小切手判決は「名古屋市昭和区台町一丁目一四番地」において送達せられていること再審原告が右事件の口頭弁論期日に出頭していないことは当裁判所に職務上顕著なところである。

(2)  次に≪証拠省略≫を総合すると、

(イ)  再審原告は訴外森川光雄の長男であるが昭和四〇年頃に結婚して以来、前記台町一丁目四番地森川光雄方をはなれて名古屋市昭和区御器所通七丁目六〇番地に居住していること

(ロ)  本件小切手訴訟の訴状、小切手判決は何れも前記森川光雄により受領せられていること

(ハ)  右森川光雄は前記小切手訴訟において「森川悦史こと森川光雄」名義で答弁書を提出し、被告を森川悦史とする本件小切手判決と対し之を「森川悦史こと森川光雄」と更正するよう更正決定の申立をしていること

(ニ)  本件小切手の支払人になっている株式会社富士銀行金山橋支店にあった被告名義の当座は右森川光雄が自己の事業用に使用していたもので、本件小切手も右森川光雄が作成したものであること

を各認め得るものであり、右諸事実に更に≪証拠省略≫を総合する時には、前記の如く本件小切手訴訟の訴状送達を受けた森川光雄が自己の手で解決しようとするの余り、再審原告に訴訟けいぞくの事実を告知せずにいる間に誤って小切手判決を確定させてしまったこと、即ち再審原告は本件小切手訴訟けいぞくより小切手判決確定に至る迄の間、弁論に参与する機会を与えられなかったこと、が認められるものであり、かかる事実は民事訴訟法第四二〇条第三号所定の再審事由に該当するものというべきである。

≪証拠判断省略≫

(民事訴訟法第四二〇条第三号の再審事由にあたる場合については再審申立期間の制限がない。)

そこで本案につき考えるに、甲第一号証(本件小切手)の成立を認むべき適法な証拠がない。再審原告本人の供述によっても之を認めることはできない。甲第一号証振出人らん顕出の記名印影、丸印影が再審原告の印章による印影であることは再審原告の供述によっても認め難く、他に之を認むべき適法な証拠がないから、印影の同一性から全文の真正を推認することはできない。(証人森川光雄の供述中には右印影が被告の印章による印影なるが如き部分があるが、右証言は再審事由認定の証拠方法とはなし得ても、小切手訴訟における証拠制限の下では本案の判断の資料とはなし難いものである。)その他に甲第一号証の成立、ひいては本件小切手の振出を認め得べき適法な証拠がない。(本件を通観するに、本件小切手は訴外森川光雄が作成したものの如くであり、右光雄の作成した本件小切手につき再審原告が責任を負うべき特別の関係があるか否か問題がないではないが、右は何れも通常訴訟下において適切な主張立証の下で判断されるのが適当である。)

よって民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 夏目仲次)

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